東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムに採用された藍色。
国内外から、ジャパンブルーとして大きな注目を集める藍の歴史や魅力などについてご紹介します。
藍といえば、現在では、藍染めをはじめとした染料の原材料としての認知が強いですが、元々は多くの機能を持つ薬草としても世界各地で重宝されていました。
日本国内でも、染の原料だけでなく、肌に塗ったり、煎じて飲んだり、食べたりしていたことが伝わっています。
そんな藍ですが、藍はアイでも、数多くの種類が存在します。日本では、当初は、トウダイクサ科の山藍を藍の代表格としていましたが、現在では、インド洋から6世紀頃に伝来したタデ藍が多く栽培されています。タデ藍は、タデ科イヌダテ属の一年草で徳島県をはじめ、北海道、青森県など、いくつかの地域で栽培されています。
藍の葉。生長スピードが速く、収穫までに間引きや移植を複数回繰り返します。
時代はなんと、紀元前3000年まで遡ります。インダス文明の遺跡から藍染めの染織槽跡が発見されたという記録が、藍の存在が世界で初めて確認された時期と言われています。それから時は流れ、紀元前300年頃になるとシルクロードを通じて文明の交流が始まり、藍染の布製品が盛んに行き来していたこととされ、インドやエジプトを中心に世界各地に藍が流通していきました。
ちなみに日本における藍の歴史は、奈良時代に遡ると言われています。当時の唐から朝鮮半島を経て伝来されたと言われ、法隆寺や正倉院に当時の藍で染められた布類が、今もなお多数保存されています。その藍こそがタデ藍で出雲族が最初に栽培したと言われています。
戦国時代には、藍の色の一つである「勝色(かちいろ)」が、縁起の良さから、武士のよろいの下を藍で染める需要が高まったと言われています。時期を同じくして、現在でも使用されているタデ藍を使用した天然の藍染料である「すくも」を活用した染めの技術と製法が伝わり、藍の染料(=すくも)の生産が本格的に始まりました。
江戸時代に入ると、木綿の普及に伴い、幅広く藍染めが使用されるようになりました。中でも徳島の「すくも」は高品質な「阿波藍」として別格の扱いを受けており、明治中頃には全国市場を席巻し、生産量もピークを迎えました。
藍の栽培は3月から始まります。大安の日を選んで藍の種を苗床に撒き、種が隠れる程度に覆土します。一か月後には藍の苗が発芽し、間引きを行います。さらに一か月後には、苗の本葉が5〜6枚揃います。この時期になると、苗は20cm程度まで成長し、移植を行う必要ができています。4,5本をまとめて抜き取り、束にしたものを40cm間隔に移植させるのです。天候さえよければ、どんどん生長していきますので、こまめに除草を行うことが大切です。6月頃になると、藍の葉がさらに生長し、50cm~60cmほどの丈に育っています。ココまで生育すれば、収穫が可能になってきます。
初夏になると藍の収穫が始まります。一回目の刈り取りを「一番刈り」と言い、一番刈りを行った後、藍の葉が再生すると、二番目の刈り取り「二番刈り」を行うことができます。
刈り取った葉は、直ちに畑から藍師の家の庭に移されて裁断機にかけられます。
裁断された葉藍は、裁断機の吹き出し口から出てきて、扇風機の風で飛ばされます。重さの違いによって風に乗って飛ぶ距離が異なることからここで、茎と葉が選別されます。選別された藍の葉は、天日で十分に乾燥され保存されます。これを、「藍粉成し(あいこなし)」と呼びます。
9月になると、保存しておいた葉藍は、寝床に入れられます。その後は、水だけをかけて発酵を促し、5日から7日ごとに水を打ち混ぜる「切り返し」という作業を繰り返し行い、冷え込みが厳しくなる頃に、藍染めの染料「すくも」が完成します。
参考文献
藍の育て方・栽培方法-藍、草木染め 工房 香草庵
特産種苗 第21号
藍は、古来から薬草として非常に重宝されているように多くの効果効能を持つ植物です。その効果は、植物の藍だけではなく、藍を活用した製品にも含まれています。こちらでは、あまり知られていない藍が持つ効能を紹介します。藍が持つ数多くの効能こそが、藍の魅力なのです。
藍の乾燥葉をパウダー状に加工したもの。
そもそも草木からとった染料は、布を染める以前から、病気に効く薬として追及されていました。特に藍は、口内炎、解毒、嘔吐、解熱に効果があると言われ、効能が多いことから漢方、生薬としての一面も持ち合わせています。この効果効能や利用方法は、中国や日本に昔から伝わる薬学書に詳細に記されているそうです。
藍は生薬としての効果効能以外にも、近年改めて注目を集めている効果があります。それは、藍が持つ、抗炎症作用や抗菌作用です。江戸時代から、藍で染めた肌着は冷え性や肌荒れに効果があると言われていました。現在では、シャツなどのインナーだけでなく、靴下やハンカチなどの衣類からカーテンやアクセントクロスのようなインテリアまで、藍で染められた製品の幅は年々広くなってきています。
藍で染めた革
様々な効果効能を持つ藍ですが、その栄養素の豊富さから、食べ物としても魅力的だといわれています。中でも、ポリフェノールの高さは、ブルーベリーの約4倍とも言われています。さらに、食物繊維とミネラルも豊富に含まれていることから、「藍の青汁」や「藍のサプリメント」などが商品化され、健康食品としても注目を浴びています。
藍を食材として活用したプレート
藍といえば、収穫した葉を原料に、藍染をはじめとして様々な製品に活用されています。その藍染もタオルやシャツなどの衣類以外における活用例も増えてきており、今後も藍の製品化はますます増えていくことでしょう。
実は、藍は栄養素が高い植物であり、食品としての注目度も非常に高いことをご存知でしょうか?藍は特に、ポリフェノールや食物繊維が非常に多く含まれていることから、粉末状の藍葉を使用した青汁やハーブティーが実際に商品化されています。さらに、生薬としての効果効能を含めたサプリメントも開発されています。飲料だけでなく、健康食品にまでも応用されているのです。
藍の粉末を使用したクッキー。荒めに粉砕した乾燥葉が生地に練り込まれています。
革にも藍を染めることができるという事はあまり知られていないように思います。藍染めの良さは色の冴え・微妙なムラ感・色の深みが多くの表情を生み出すところにありますが、それは革製品も同じ。使えば使うほど、表情を変え、味が増します。そんな共通項を持つ藍×革製品は、身に着ける人を一段と素敵に魅せることができるでしょう。
藍で染めた革財布。使う度に表情を変えてくれます。
衣類・食品と続いて、住空間にも藍の活用は及んでいます。漆器や陶器に藍の染料を使って模様があしらわれた作品はこれまでも数多く発表されてきましたが、現在は、フローリングやアクセントクロスなど、インテリアとして藍が評価され始めています。藍が与える温かみのある色合いと和モダンな雰囲気が今後ますます注目されるでしょう。
色に塗られたフローリング。藍を塗料として使用しています。
藍日本における藍は現在、天然藍が持つ美しさや風合いが見直され、全国的に静かなブームが起ころうとしています。世界に目を向けると日本と同様に、藍が評価されている国や地域があります。それは、台湾とフランスです。こちらでは、台湾とフランスにおける藍事情を簡単ではありますが、紹介させていただきます。
近年台湾では、1920年代から40年代にかけて、失われたと言われてきた藍が再評価されるようになりました。これは明治30年代から衰退の一途を辿った後に再び脚光を浴びる日本における藍事情と重なるものがあります。特に、藍染の文化を継承しようと動きが盛んで様々な取り組みがなされています。
卓也小屋での風景。レジャー農園として藍の認知向上に貢献している。
代表例の一つとしては、三義郷にある農園「卓也小屋」での取り組みです。こちらは、藍草園、藍染め工場や野菜園、さらに宿泊施設も構えるいわばレジャー農園です。ここでは、藍染の体験のワークショップが実施されています。観光客も訪れる施設で藍染めの体験ができ、国内外からやってくる観光客に向けた藍の普及に貢献しているとされています。
さらに三峡という地域では、藍が地域活性化の象徴として用いられています。2002年より開催されている「三峡藍染フェスティバル」が挙げられます。こちらでは藍染体験だけでなく、ファッションショーなど藍染の知識を深めるイベントとして認知拡大の大きな役目を担っています。
また、台湾では文化の継承・発展に限らず、日本と同様に幅広いジャンルで藍の商品化が進んでおり、今後も注目すべき国の一つと言えます。
フランスでは、トゥールーズという南フランスの核都市が藍の分野で非常に注目を浴びています。トゥールーズは実は、青色天然色素(=パステル)を欧州全土に配り巨万の富を得た街なのです。この青色天然色素こそ、日本でいう藍に当たります。当時のフランスでは、ウォードを使用してパステルが生産されていました。街の風景をよく見ると、窓枠やドアなどが青色に輝いており、その光景はパステルで繁栄した街を象徴するようにも見えます。
当時のパステル普及に大きく関係したポンヌフ橋。トゥールーズの町の中心を流れるガロンヌ川に架かっている。
もちろん、現在でもその青色の輝きは健在で、トゥールーズのコスメティックブランド「Graine de Pastel」が、パステルを活用したコスメグッズをはじめとしたライフスタイルアイテムを数多く展開しています。パステルは、藍と同様に生薬としての機能に加えて、アンチエイジング効果もあるとして注目されています。
このように、藍は日本だけでなく、海外においても再注目されている品目なのです。